スポーツによる負傷に対する鍼灸施術

スポーツ障害と鍼灸施術

スポーツ全般の過度な運動により、筋肉や腱、靭帯に過度な負担が加わって、慢性の痛みを生じる疾患をスポーツ障害といいます。

スポーツ選手のケガの治療やコンディションの回復のために鍼灸の施術をすることをスポーツ鍼灸と呼びます。

スポーツ鍼灸のメリットは、スポーツ中に負ったケガに対して直接アプローチできるという点にあります。

スポーツ鍼灸はアスリートの肉体とメンタルの両方をケアできることから、その注目度が高まっています。はりやきゅうによる施術は肉体を癒すことはもちろん、リラックス効果を与えて精神面の負担軽減にもつなげられます。


スポーツによる代表的な負傷


肉離れ

肉離れは起こりやすいスポーツ外傷のひとつです。運動をしている人なら、誰もが耳にしたことがあるのではないでしょうか。

肉離れは俗称で、正式には「筋挫傷(きんざしょう)」といいます。スポーツを行うなかで、急に無理な動作をした場合に発生する筋膜や筋繊維の損傷・断裂を表します。筋肉が裂けたり破れたりすることを筋断裂といいますが、筋断裂のうち範囲が部分的なものを一般的に肉離れと呼びます。

発症すると患部に激痛が走り、それ以上運動を続けられなくなります。ときには筋肉が断裂した瞬間に「プチッ」という音が聞こえることもあるでしょう。また、痛みのある部位をよく観察すると、くぼみや変色が生じている場合もあります。


捻挫

スポーツ外傷で最も多いのが足首の捻挫です。しばらく運動ができなくなったり、普段の生活にも支障がでることがあります。

捻挫とは「捻る(ひねる)」「挫く(くじく)」ことです。関節に不自然な強い力がかかって、靱帯(じんたい)が損傷した状態を指します。足首、手首、指の付け根、肩、ひざなど、関節のある部分ならどこでも起こりえます。そのうち、スポーツ活動中に多いのが足首の捻挫です。ジャンプからの着地や切り返し動作、他の選手との接触プレーなどの場面で多く発生します。

捻挫の主な症状は、痛みと腫れです。靱帯の損傷具合によって、次の3つのレベルに分類されます。

・レベル1:腫れも痛みも軽く、一時的に靱帯が伸びている状態
・レベル2:靱帯の一部が切れている状態
・レベル3:靱帯が完全に切れており、関節が不安定な状態

靱帯は関節を構成する骨を固定する役割があるため、緩んだり、切れたりして機能をはたせなくなると、歩行などの動作に支障をきたします。


腱炎

筋肉は腱になって骨に付着します。筋肉が収縮や伸展をして腱を介して骨や関節を動かすため、腱には大きな力が集中します。そして腱の使いすぎによる疲労や炎症が起こります。これを腱炎といいます。


靭帯損傷

人の関節は靱帯と呼ばれるヒモ状の組織によって骨同士が繋がれており、ズレたり動きすぎてしまうことを防いでいます。靭帯損傷は、スポーツ中に膝関節に大きな力がかかることによって、前十字靭帯や後十字靭帯、内側側副靭帯の損傷が起こってしまいます。靭帯損傷は重症度によって、「軽い損傷」「部分断裂」「完全断裂」に分類されます。膝の靭帯損傷は、特にブレーキをかける、急な方向転換、接触などで損傷を起こすことが知られています。

前十字靭帯損傷⇛ジャンプや着地、急な方向転換、ストップなどの動作を行った時、膝をひねって靭帯が切れてしまうことが多い傾向にあります

後十字靭帯損傷⇛スポーツでの衝突、膝を地面に強く着いた時など、膝が曲がっているときに強い衝撃がかかった際に損傷します。

内側側副靭帯損傷⇛膝の外側に大きな打撃を受けた時、膝の内側は自然と開き、内側側副靭帯は伸びるか切れてしまいます。特にアメフト、ラグビー、アイスホッケーなどのように他の選手と勢いよくぶつかり合うようなスポーツ(コンタクトスポーツ)では、その力が膝に加わることで痛めることが多くあります。

外側側副靱帯損傷⇛膝の内側から力がかかった際に損傷する靭帯で、比較的稀ですが、スポーツ中の接触や交通事故などで起こることがあります。


骨折

疲労骨折⇛ジャンプ動作など強い負荷が繰り返し骨に加わって起こる場合(跳躍型:ハードル、バスケットボール、バレーボール)と通常の負荷が長期間・長時間にわたって骨に加わって起こる場合(疾走型:長距離ランナー)があります。

病的骨折⇛健康な骨では、かなり大きな力がかからないと骨折しません。しかし、骨全体が弱っていたり、骨の一部が溶けていたりすると、弱い力でも骨折します。

スポーツ障害に対する鍼灸施術の効果

スポーツ鍼灸はあらゆるスポーツ競技で活躍するアスリートを支援する方法として、多くのシーンで取り入れられています。

疲労回復やコンディションの維持、ケガの予防や治療を行ったりできることから、プロのアスリートやチームから注目を集めています。

障害部位への鍼灸施術で、筋肉の緊張緩和や血流の改善が認められ、次のような効果が認められます。

肉体疲労の早期回復

はりやきゅうを使うことで血行を促進し、体内に溜まっている疲労物質をスムーズに排出させたり、自律神経を整えて深い睡眠を導くことが可能です。肉体の回復力も高められるため、疲れにくい身体づくりにつなげる効果があります。


痛みの緩和

鍼灸でツボを刺激すると、中枢神経内にモルヒネのような役割を持つホルモンが放出されます。 この物質(内因性オピオイド)が、痛みを抑え、痛みを脳に伝える神経経路をブロック。 脳と脊髄からのダブルのアプローチで、痛みを緩和します。鍼灸施術自体に痛みはありません。


炎症の抑制

お灸などの温熱刺激により、副腎皮質ホルモンが分泌され、白血球が活性化されるほか、炎症や痛みを抑制する効果があります。


組織修復・機能回復の促進

鍼灸施術により筋肉や神経の血流を増加させて、組織修復や機能の回復を促します。

スポーツ障害に対する鍼灸施術の特徴

スポーツ鍼灸では、自然治癒力の効果を引き出す東洋医学を用いた鍼灸施術をおこないます。
正しい知識でケアをおこない、身体の状態を自然とより良い方向へ改善させていくことを目的としています。

患者様は、整形外科などで診察を受けてしばらくたった頃に来院され多いのですが、早い時期の施術が回復も早まりますので、整形外科医と相談の上と併用しての治療をおすすめします。

また、スポーツ障害が起こる原因はさまざまですが、からだの使い過ぎによる柔軟性の欠如、栄養や休養の不足とそれに伴う免疫力の低下、間違ったフォームなどが考えられます。

早期の回復を目指すには、十分な睡眠や休養、毎日の食事から栄養をとり、適度な柔軟性を確保することが大切です。

一般的な鍼灸施術との違い

一般的な鍼灸施術では主に、腰痛や肩こり、膝の痛みなど、身体にさまざまな痛みを抱えている患者さんを対象に、心身の不調の改善を目的とした施術が行われます。

それに対してスポーツ鍼灸では主に、スポーツによる怪我の治療や予防、パフォーマンス向上などを目的として施術が行われるという違いがあります。

また、東洋医学だけではなく、スポーツ医学や整形外科的な観点から、総合的なアプローチを行うこともスポーツ鍼灸の特徴といえるでしょう。

鍼灸施術全般に共通しているのは

薬物による施術は行わない
鍼灸による副作用がほとんどない
個々の症状に合わせた施術が可能など心身への負担が少ないことです。

アスリートが鍼灸施術を受ける理由

スポーツ鍼灸は、スポーツ障害の予防・治療や、競技でのパフォーマンス向上などに効果が期待できるため、プロ・アマチュアに関係なく、スポーツに取り組むすべての方にとって受ける価値のある施術です。

病気になってから治すという西洋医学と異なり、東洋医学では病気を未然に防ぐという考え方が基本です。

鍼灸施術は、リラックス効果が得られ、毎日の体調管理と、身体のメンテナンス・メンタルケアによって、ストレスを軽減させて心身の健康を保つことができます。

スポーツ鍼灸で行われる鍼施術

鍼灸施術は、一人ひとりの体調、患部の状態、年齢、治療経過などに合わせて使用する鍼を変えて施術をおこないます。

スポーツ鍼灸で行われる鍼施術としては、主に以下のようなものがあります。

豪鍼(ごうしん)

豪鍼とは、一般的な鍼灸施術によく用いられる代表的な鍼です。太さは0.1㎜~0.3㎜と髪の毛と同じくらいかそれ以下のものを使用することが多いため、痛みはほとんど感じません。


パルス(電気鍼)

電気鍼(パルス)とは、刺した鍼に低周波の電気を流す治療法です。通電によって短時間で効率的に筋肉に直接アプローチし、血流を促進します。

筋肉の疲労緩和や、慢性的な凝りを改善する効果が期待できます。


円皮(置き鍼)

円皮鍼は、一般的に置き鍼と呼ばれています。
治療効果の持続、痛みの強い部分や不快な部分への継続的な治療、固くなった筋肉部分の緩和などに効果があります。


てい鍼(小児鍼)

てい鍼とは刺さずに施術する鍼です。


さすったり、加圧したりして皮膚への軽い刺激を与える鍼のため、小児鍼として使用されています。形状は堤型で先が丸くなっているため、皮膚に刺さることがないことが特徴です。そのため、小児だけでなく、大人でも身体に敏感な方や先端恐怖症の方の施術に使用されることもあります。

スポーツ障害に対する鍼灸施術の注意点

近年、スポーツ鍼灸の著しい普及が見られますが、それでも東洋医学への理解が不足していることが多々あります。

施術後には、身体の重だるさや眠気があらわれることや、運動を控える必要があることなど事前の説明はとても重要になります。

スポーツ選手には、監督、コーチ、トレーナー、マネージャーなどのチームが存在するため、施術に際しては、詳しい説明を行い、理解を得た上で行うようにしましょう。

施術が長期にわたる場合は、選手のトレーニングメニューを確認し明確な施術計画を示し、両者の協力の下、選手の体調回復やパフォーマンス向上に努めましょう。

施術期間

施術期間は、患部の状態、体調などからそれぞれ異なりますが、

急性のものに関しては毎日か隔日、慢性の場合、怪我防止、パフォーマンスUPなどは週1~2日を目安としています。

担当の医師、鍼灸師と、スポーツトレーナーと相談しながら施術を続けることが大切です。


まとめ:スポーツ障害に対する鍼灸施術の有効性

スポーツ鍼灸は、治療や怪我の予防を主な目的として、固まった筋肉をほぐしたり、運動で乱れがちな自律神経を整えたりすることで、血流を促進します。また、 体内に滞っている乳酸などの疲労物質を取り除き、自己治癒力を高めるなどの効果が期待できるため、疲れにくく、回復しやすい体づくりに貢献します

さらに、全身のツボを鍼や灸で刺激することで、胃腸の調子や自律神経機能の調整をしたり、ホルモンバランスを整えて、さまざまなスポーツ障害や筋肉痛、身体の疲労回復がしやすい状態に整えることにも効果があります。

最近では、中高年者に人気の高いゴルフや登山、ウォーキングなどのスポーツ、一般の方のマラソンやロードバイクなどによるスポーツ障害も多くなっていますので、こういった運動の趣味がある方にもおすすめです。

トレーニングに鍼治療を組み込むことで、コンディション調整やスポーツ傷害の発生を積極的に防ぐことができ、結果的に競技パフォーマンスの向上を手に入れることになります。